緑の目の猫 第6話 アレルゲン(2)
第6話 アレルゲン(2) それから時々、男と顔を合わせた。チラシは徐々に酷くなっていた。患者の苦しみを連ね、猫を世話する人を糾弾する。それはただおぞましさだけを伝える代物に成り下がっていた。 大抵男は早朝にやってきた。チ…
第6話 アレルゲン(2) それから時々、男と顔を合わせた。チラシは徐々に酷くなっていた。患者の苦しみを連ね、猫を世話する人を糾弾する。それはただおぞましさだけを伝える代物に成り下がっていた。 大抵男は早朝にやってきた。チ…
第5話 アレルゲン(1) 実習棟は他の建物に比べて古く、後の建て替えが決まっていた。壁はひび割れ、昔の落書きが風化して奇妙なシミになっている。入り口の外壁には展覧会やイベントのチラシが無造作に貼られていた。会期が終了して…
第4話 白い猫 目覚めると窓の外は薄明るく、街が朝日を浴びて動き始めていた。傾げていた首がこわばり、動かすと痛みが走った。羽織ったパーカのチャックを閉める。早く帰って自分の布団で眠りたかった。走行音に混じって幾人かの寝息…
第3話 シマ 階段の上段に腰掛け、堤防から川を見下ろした。陽を受けた水の流れが反射光を揺らしている。辺りに人影はなく、向こうの橋の上をゆく車もわずかだった。川縁のグラウンドに苔むしたワゴン車が佇んでいる。 土曜の昼下がり…
第2話 ハチ 今朝国道で獣が死んでいた。烏が群がっているので遠目からでも察しがつく。一メートル程に近づいてようやく数羽が道を開けた。内臓が飛び出た赤い肉は元々猫だったらしい。 千佳は餌に顔を突っ込むナナを眺めながら、わざ…
第1話 ミッキー 泣きむせぶ母の電話で慌てて実家へ帰ると、既に祖母はドライアイスと共に白い布団に寝かされていた。親戚たちに緑ちゃん大変やったな、と手招きされて布団の横に腰を下ろすも、眺める顔は二週間前に施設で見たのと何も…
2021
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09
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