ねこねこブックレビュー【09】『なぜ、猫とつきあうのか』吉本隆明 / 講談社学術文庫

愛猫家にとって、およそこれ以上の愚問は考えられない。「なぜ、猫とつきあうのか」。好きだから、かわいいからに決まっているというか、ねこを飼う、ねこと住むことに一体それ以上の理由があるのか?必要なのか? そう、この世紀の「愚問」にあの吉本隆明が答えるのが本書だ。

吉本隆明といえば、日本が世界に誇る思想家にして詩人だ。亡くなってからもうしばらく経つので、知らない方もいらっしゃるかと思うのだが、『共同幻想論』『言語にとって美とはなにか』『ハイイメージ論』など、難解な主著で知られる。

その論じるところテーマは、国家、言語、マルクス、親鸞、アダムスミスから臓器移植まで幅広く、およそこの世のあらゆることを論じていると言っても過言ではない、20世紀切っての論客である。

ミシェル・フーコー(フランスの大変著名な思想家、哲学者、社会学者)とも確か対談をしていた。著作リストも100冊できかないはずである。あの吉本ばななの父親だ。娘についても「吉本ばななはマクドナルドのハンバーガーである」と喝破している。

そんな世紀の思想家・吉本隆明が「なぜ、猫とつきあうのか」。世紀の愚問に相対する。果たして破壊されるのは矛か、盾か。結論からいうと、ねこの前に歯が立たない、というか、立てる気もない、単なるフツーの愛猫家、吉本隆明が繰り広げられるのが本書だ。

あんまり人間関係がぎくしゃくしてて、みんな孤独になっているとか、おもしろくない、どっかに不安とか不満とかっていうのが増大しつつあるというようなことがあって、猫っていうのは、それに対してちょうど、人間関係がいやになったというようなときにはものすごくいい親密な関係で、向こうは文句を言うわけじゃないですし、またこっちがかわいがればそれに応じるみたいなことがありますからね。だからわりに、人間関係がきついとか、不満だとか不安だっていう現代社会の、特に都市生活のストレスが癒されるところがあるんじゃないでしょうか。(p.71)

猫ブームについて、対談相手の編集者から問われたときの、吉本の回答がこれ。読んでいると一体この本で何をしたいのか、何が行われているのか、だんだんわけがわからなくなってくる。そのすっとぼけた妙味こそが味わい、なのかもしれない。

これじゃいかんと必死に食い下がる編集者。「最近、女子高生とかが家出る前にシャンプーしたりしますよね、男性用化粧品とかも出てるじゃないですか。猫とかも化粧するとか、ナルシストって言うじゃないですか。何かそこらへんで、その、言うことあるとすれば……」などと水を向けるのだけど、

「そうかもしれないですね」

吉本の答えはそっけないというか、まあ、そこに別に謎がないんだから、そういう答えになるに決まっているのだけれど、その気まぐれな、気ままに受け答えしてる、無防備な感じ。吉本が世界で一番賢いだけの、ねこのように見えてくる。

編集「人間でも、今日、雨降ってますけど、梅雨というか、あんまり気持ちはよくないですね」

吉本「よくないですね」

編集「猫もそういう出ようか出まいかっていう心理っていうんでしょうか、それは天気とけっこう関係あるんですか」

吉本「あると思いますね」

一体何を話してるのか(笑)。ねこの行動、振る舞いにも謎はあるかもしらんが、こんな本の出版すら許してしまう吉本隆明その人の謎のほうがはるかに大きなクエスチョンマークなのではないか。

「巻末エッセイ」は娘のよしもとばなな、カバー挿画はもう1人の娘、ハルノ宵子と、吉本家総出の一冊。

父がもうほとんど歩けなくて家の中をほとんど這うように移動していた時期のある大みそかに、私と夫と子どもが実家に着くと、玄関にものすごい「死」の匂いが立ちこめていた。ケージが置いてあり、具合の悪い半野良ちゃんが入っていた。あまりその家にいない私たちに対してもちろんおびえていたので、あまりのぞき込まずそっとしておいた。(「巻末エッセイ」吉本ばなな p.220)

父が父なら娘も娘。「ほとんど」「ほとんど」「ものすごい」「あまり」「もちろん」「あまり」と副詞句ダラッダラで、ねこと父を死の匂いで並列に語る吉本ばなな……。「なぜ」と問いかける本書を読み、謎はますます深まるばかりだ。

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